なぜCookieレスの世界でパブリッシャーデータが秘密兵器になり得るのか

3rdパーティCookieの無効化が刻々と迫っています。GDPR・CCPAによるプライバシー保護、Google・Appleによる3rdパーティCookieの制限は、3rdパーティデータの衰退を更に加速させていると言えるでしょう。多くのアドテクノロジー企業は、この変遷によって自社のビジネスが脅かされると見ており、マーケターは、パートナー企業のアトリビューショントラッキングが難しくなるのでは、という懸念を持っています。

3rdパーティCookieの終焉=ビジネスへの大きな脅威・・・本当にそうでしょうか。Pianoではこれを、3rdパーティデータから1stパーティデータ、そして更に重要なゼロパーティデータへと軸足を移していくチャンスであると考えています。

ユーザーたちは毎日メディア企業のサイトを訪れては、明示的同意の下、正確なデータを提供しています。企業が最も必要としている類のデータです。ユーザーはお気に入りのサイトへのより便利なアクセスや、有料コンテンツのアンロックなどで会員登録やサブスクライブを選び、自ら進んで個人データを提供しているのです。この事実を適切に利用することが、新しいデータランドスケープで企業が前進するキーになり得るのです。

3rdパーティデータの問題点

サイトオーディエンスの理解と、新たなユーザーの発見の目的で、企業は長い間3rdパーティデータに依存してきました。データ仲介業者(データアグリゲーター)によって販売されるこの種のデータは、膨大な量が入手可能であり、いろいろな消費者のタイプを見つけられるというポテンシャルはありますが、3つの大きな課題があります。

第一に、オンライン上のプライバシーとGDPRに関する消費者の懸念が高まっていることです。消費者はトラッキングやプライバシーに対して、以前に増して敏感になってきており、それがGDPRやブラウザクッキーポリシーなどの規制導入の始まりになり、3rdパーティデータの信頼性が低下した原因でもあります。

次に、3rdパーティデータは最新のデータではない可能性が高いことです。ある広告の商品をすでに購入済みであったり、購入しないことに決めた消費者がターゲティングされ続けてしまうのです。数週間に渡り、その消費者のインターネット上で同じ商品の広告が表示されてしまうのはその為です。2週間、もしくは2ヶ月前のデータセットで戦略を構築している場合、データ自体とそれに基づいて構築された戦略は効果的でない可能性があり、オーディエンスの不信を招きます。また、3rdパーティCookieの制限により、今後3rdパーティデータの正確性がよりいっそう低くなることは目に見えています。

最後に、3rdパーティデータのソースは曖昧なことが多く、どのように収集・集計・販売されているかはブラックボックス化されてしまっている事実です。ユーザーの同意が常に認識・検証可能ではないということです。業界がデータの透明性に関するルールを厳格化させるにつれて、3rdパーティデータの有用性は低下し続けるでしょう。 

3rdパーティCookieとは違い、3rdパーティデータは完全に消滅してしまうことはありませんが、データの価値が著しく低下することに変わりはありません。しかし、メディア企業にはより優れた代替案がすでに存在しているのです。

3rdパーティデータに取って代わるものとは?

この”ポスト3rdパーティCookieの世界”において、まだ解決されていない問題が多々ありますが、まずはっきりと言えることは、データの信頼性が高ければ高いほど、パブリッシャーのビジネスパートナーにとって、そのデータの価値が高まり、ターゲティング広告にコストをかけることに前向きになる、と言うことです。それを実現できる以下のデータと比較すると、3rdパーティデータはやはり不十分であると言えます。

ゼロパーティデータとは、顧客(サイトユーザー)が意図的に運営企業と共有するデータのことです。会員登録時にフォームに入力された、顧客のメールアドレスや性別などのCRM(顧客関係管理)データや、Webサイトのカスタマイズで選択した設定情報などが含まれます。価値交換の一環としてや、ユーザーエクスペリエンス向上の為に、顧客の明示的な同意のもとで提供されたデータです。これはパブリッシャーやブランドが収集できる最も価値のあるものですが、正確に言えば所有者は企業ではなく顧客自身ですので、顧客の同意がなければ使用することはできず、データの保護も慎重に行わなければなりません。しかし、非常に正確で、信頼性と透明性の高いものです。

1stパーティデータは、ゼロパーティデータを含むと考えられる場合もありますが、Webサイトやアプリを閲覧したり、オンラインストアを訪問したりする際に顧客を観察し収集する行動データも含まれています。行動データのようなタイプはゼロパーティデータとは異なり、顧客の暗黙的な合意の下で収集されるデータですが、依然として価値の高いものと考えられています。その理由は以下の3つが挙げられます。

  1.  事業者自身が収集しているので、正確性が高い
  2. 自社のオーディエンスから得られるインサイトは、他社のオーディエンスのインサイトと比較して、彼らの嗜好や行動を真に反映している可能性が高い。つまり、1stパーティデータに基づくキャンペーンや戦略が成功する可能性が高い。
  3.  データが収集・保存される条件を自社が管理しているため、データの誤用やGDPRへの準拠に関する懸念が少ない

2ndパーティデータは、1stパーティデータを提携している他社に渡した際に、そのような呼び名に変わります。言い換えれば2ndパーティデータは、他社の1stパーティデータなのです。サプライヤーが相互利益のために小売業者とデータを交換したり、広告代理店が大手パブリッシャーと独占契約を結んで運用型広告を強化しようとした場合など、同じ目的をもつパブリッシャーとの提携の中で発生するものです。メディア企業にとって、2ndパーティデータの使用や共有に関する明示的な同意を得ることは簡単なことではありませんが、適切な技術のセットアップをしっかりと行うことにより、確実に処理することは可能です。

メディア企業はこれらのデータソースを活用することができる、独自な立場にあると言えます。特に1stパーティデータと、ユーザーデータの中でも最も信頼性と透明性の高いゼロパーティデータに関しては、有利に収集をすることができます。

ゼロパーティデータを最大限に活かす

メディア企業はゼロパーティデータの活用で、広告主に利益をもたらすと同時に、ユーザーエクスペリエンスのパーソナライズが可能となり、晴れて一企業のサブスクチームと広告チームの利益が一致するようになるのです。多くのメディア企業が長年取り組んできた課題です。

ゼロパーティデータは、会員登録やサブスク申込みなどで、すでに取得している企業も多いことでしょう。しかし一歩先を行く企業は、サブスクリプション企業がビジネスの最適化に成功した手法を用いて、自社のマーケットを最大化させます。その手法とは、読者をユーザーエクスペリエンスの中心に置いた質の高いコンテンツや会員限定コンテンツ、パーソナライズされたレコメンデーション、ユーザーのエンゲージメントとユーザーエクスペリエンスを高めるカスタマイズされたオファーなどが該当します。ユーザーは価値交換の意義を見出すことで、初めてより良いユーザーエクスペリエンスを求め、自身のデータを提供します。

DMP(データマネジメントプラットフォーム)はデータを活用し、ユーザーの理解やセグメント作成を行います。Lookalikeと呼ばれる推定拡張機能は、外挿法を用いることで、アノニマスユーザーに対してもユーザーデータを付与することができ、ユーザー全体の把握が可能になります。そして関連性の高いユーザーへの広告ターゲティングや、効果的にエンゲージメントを高めることができます。

ヨーロッパの大手パブリッシャー企業であるMediahuisでは、4百万人を超える登録ユーザーのデータベースを構築し、次に収集したゼロパーティデータと1stパーティデータを使用して、ベルギーとオランダ全体におけるオーディエンスベースの広告ビジネスを立ち上げました。オーディエンスキャンペーンは総広告収入の27%に成長し、CTRは非ターゲットキャンペーンと比較し、26%の向上が見られました。

これが、ゼロパーティデータと1stパーティデータの力です。既知のユーザーに焦点を当て、 広告ビジネスとサブスクリプションビジネスを組み合わせることで、複数の収益源から得られる、より強力で利益性の高い収益モデルの確立につなげることができるのです。

原文記事はPiano本社ストラテジックサービス SVP マイケル・シルバーマンによるものです。