3rdパーティCookie廃止に備えた計画的な対策とは

※こちらの原文記事はPIANO社ストラテジックサービス  SVPであるMichael Silbermanが執筆しており、Digital Content Next に掲載されたものです。

2020年初頭Google社が、2022年に3rdパーティCookieを無効化すると発表し、業界では大きな話題となりました。(2021年6月下旬、同社は3rdパーティCookieの無効化を2023年まで延期すると発表しています。)

人々がパニックに陥る中、Googleは、3rdパーティCookieを無効化する方針は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック後も変わらないことを表明したかたわら、プライバシーサンドボックスの計画を進めていました。

2021年1月になってようやくGoogleは、プライバシーサンドボックスの公開テストを開始する計画を発表しました。関連するプライバシーコントロールや、共通する興味関心データに基づいて、大規模なユーザーグループへの広告ターゲティングを可能にする、FLoC(Federated Learning of Cohorts)の初期の実施結果などについてです。また、3rdパーティCookie廃止後には、新たなトラッキング技術を取り入れないことも表明しました。Googleは「デジタル広告を効果的に表示する目的で、Web上の消費者をトラッキングする必要がなくなった」と主張しています。

これはアドテクノロジーの終焉なのか?

混乱が次々に起こりました。まず初めに、プラットフォームを持たないアドテクノロジー企業にとってはビジネスの終焉になるのではないかと騒がれ、多くの企業の株が下がりましたが、翌日には、「Googleは3rdパーティCookieのサポートを終了すると、再度アナウンスしただけであって、大きな変化があったわけではない」と指摘する人が続々と現れました。更にGoogleは、The Trade Desk・Prebid.org・IABが開発・管理する、Unified ID 2.0のようなソリューションを採用するつもりはないとも表明しています。

最近発表された重要事項はこれだけではありません。IAB Tech Labは、Unified ID 2.0・LiveRamp・ID5などの広告識別子のガイドライン案を発表しました。The Trade Deskは、Unified ID 2.0のベータテストの開始を発表し、広告主はこの技術を使ってインプレッションの取引ができるようになりました。また、GoogleはCloud Identityに関する発表からわずか1週間後に、パブリッシャーの1stパーティデータを活用する「パブリッシャー指定の識別子 (PPID) 」を、プライベートマーケットプレイスからオープンオークションに拡大する計画の詳細を初公開しました。

また、他にも、Appleのトラッキングの同意や、iOS端末の広告識別子「IDFA (Identifier for Advertisers)」といったトピックも出てきました。ここまで読んでいただくと、パブリッシャーにとって、広告業界は混乱しており状況がすぐに変わってしまう不安定なものである、と感じた方もいるのではないでしょうか。それではもう少し整理してみましょう。

今後のための準備

現時点では、Google、Apple、オープンWebを持つアドテクノロジー企業のそれぞれのアプローチを押さえ、検証しておく必要があります。

  1. 業界標準になる可能性のあるGoogleのFLoC
  2. Appleのトラッキング規制のルールやSafariのITPによる制限
  3. Unified ID 2.0や、IAB TechLabワーキンググループで作成されたその他の標準規格 (規制当局やブラウザがCookie代替えソリューションをブロックしないことを前提としています。)

パブリッシャーと広告主は同様に、ウォールド・ガーデン(GAFAなどに代表される、データを囲い込んで他者へ渡さないクローズドプラットフォームの呼称)との戦いは、より熾烈になり、クッキーレス時代においては、ウォールドガーデンのプラットフォーマーたちに有利に動くのではないかと予測する人がいました。しかし、Googleは、その予測とは反する内容を発表しました。Magnite社の最高技術責任者であるTom Kershaw氏によると、「Googleがプライバシーサンドボックスに注力していることを公に認めたということは、今後Googleは他社と同じツールを使用することになるということで、最終的にはChromeソリューション・ユーザーログイン・パブリッシャー1stパーティセグメントの共存が可能になるのかもしれない。」と発言しています。

重要視される1stパーティデータと会員ID

Googleが自社の広告チームを優遇せずに、その他の広告ビジネスに、データアクセスを平等に与えるのかどうかの懸念はありますが、パブリッシャーの為に1stパーティデータを活用できるようなソリューションを開発していることは確かです。これはGoogleの広告エコシステムの非PIIユーザーも含まれます。もちろんGoogleも、YouTube・検索・Gmailをはじめ、その他のサービスにおいて、1stパーティデータと既知のユーザーIDに大きく依存しています。だからこそ表面上では、パブリッシャーを支援しているように見えるソリューションが、実際にはパブリッシャーの力を制限するような行為をするとは考えにくいと言えます。特に、現在Googleが複数の国において、独占禁止法違反の調査を受けている事実から考えても、彼らにとって危険な行為になりかねません。つまりパブリッシャーが、1stパーティデータと会員IDを重視する必要性がさらに強まるということです。

今すぐ準備を始めましょう

クッキーレスが現実化しつつある現在、事態を困難な状況にしているのは、ある意味自分たちなのかもしれません。多くの企業が、自ら計画を立ててそれを実行するのではなく、まるで長引くチェスゲームの駒のように、Googleの次の動きを待っていたからです。ここで忘れてはならないのが、3rdパーティデータは効率的ではあっても、データソースや、その正確性が確実ではないため、有効性が低いという事実です。

3rdパーティCookie脱却への6つのステップ

3rdパーティデータから違うソリューションへとシフトする為には、6つの領域で対策を講じる必要があります。

 

  1. 最低限のゼロパーティデータ
    必要なデータは1stパーティデータだけではありません。例えば会員登録フォームのように、ユーザーの明示的な同意の元に取得するデータを、ゼロパーティデータと呼びますが、このゼロパーティデータが非常に重要な力を秘めています。これらのデータを一定量保持していれば、効果的にターゲティングが可能なLookalikeセグメントの作成ができるようになります。一定量のデータを収集する為には、まずサイトオーディエンスの一部をターゲティングし、会員登録してもらい、同意を得ながらデータ提供を促します。鍵付きコンテンツへのアクセスなど、オーディエンスにとって魅力のある特典を提供し、価値交換を行うことで、より多くのデータ収集が可能になります。
  2. データ格納と同意管理のツール
    現在自社で使用しているプラットフォームを把握した上で、獲得したデータや同意を格納・管理する。
  3. オーディエンスセグメント作成ツール
    ユーザーのサブセットを作成するには、オーディエンスセグメント作成ツールが必要です。ゼロパーティデータや1stパーティデータから抽出した、類似する特性に基づいて作成されます。また、Lookalike(類似)セグメントを活用し、オーディエンスを拡張することも可能です。
  4. 適切なタイミングでデータを収集
    時間をかけてより多くのデータを収集するには、カスタマージャーニーにおいて、どのタイミングでデータ提供を求めるのかを見極める必要があります。ファネルのそれぞれのステージにおいて、ユーザーに適切なオファーを提供し、次のステップへと導く方法を理解することで、より多くのデータを取得でき、より充実した顧客プロファイルを作成できるようになる。
  5. 共通IDのパートナー企業を確保する
    収集したゼロパーティ・1stパーティデータを活用する為には、Cookieマッチングの代わりとなるものが必要です。どの共通IDベンダーのソリューションが自社のビジネスに最適なのかを、念入りに精査し、見極める必要があります。
  6. 新ソリューションのテスト開始は今すぐにでも
    Cookieの無効化は2022年ですので、まだ時間があると思われがちですが、実際に蓋を開けてみると、3rdパーティCookieの代替案の策定、実施は壮大なプロジェクトであることがわかります。無効化が適用される直前に慌てて新技術を適用させるのはかなりの困難が想像できますし、想定外のトラブルが発生する可能性もあります。現時点でもSafariなどでは、すでに3rdパーティCookieはブロックが始まっていますし、今から自社ビジネスに適合するIDやDMP(データマネジメントプラットフォーム)・CMP(コンセントマネジメントプラットフォーム)など、様々な異なるソリューションをテストし、来たる2023年に備えることが重要です。

2023年のCookie完全無効化までに、Googleから更なる発表が続くことは間違いないでしょう。どのようなニュースであっても厳しい目で判断することが必要であると同時に、クッキーレスの世界に向けての準備も、継続的に行っていかなければなりません。新しいソリューションへの移行は簡単なことではありませんが、プライバシー最優先で、パーソナライゼーションを行う新時代に向け、業界全体がを共に進んでいることを忘れず、準備を進めていきましょう。